エピジェネティック年齢を決める”重要な遺伝子”とは?最新の論文を分かりやすく解説

エピジェネティクス
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ポイント

  • DNAのCpGサイトとは、C(シトシン)とG(グアニン)が連続する配列のこと
  • DNAのメチル化とは、CpGサイトのC(シトシン)がメチル化されること
  • 「セクレタゴギン」と「マリン」の遺伝子に関するCpGサイトは、エピジェネティック年齢の決定に大きく関与している可能性が高い

・エピジェネティック年齢っていうけど、どうやって年齢を決めているのかイマイチイメージが沸かない…。
・結局、エピジェネティック年齢って何が重要なのかがよく分からない…。

こんな風に、エピジェネティック年齢に興味を持ったけど「何だかよく分からないな…」と思ったことはありませんか?

確かにエピジェネティック年齢は、ここ数年で急激に研究が進んでいる分野なので、まだまだ分からないことが多いのが事実です。
(もしエピジェネティック年齢について、まだよく分からないという方がいましたらこちらをご覧下さい。)

しかし、興味を持っただけではもったいないです!なぜなら、エピジェネティック年齢の考え方は、私たちの健康、特に”老化”に大きく関与しているからです。

そこで今回は、エピジェネティック年齢の研究の第一人者であるHorvath博士らが2013年に発表した論文を紹介して、主に「エピジェネティック年齢の求め方」について解説します。

それから、2022年に発表された最新の論文についても紹介します。こちらは、Horvath博士の論文からさらに発展した内容が書かれており、その中でも「エピジェネティック年齢の老化の原因となる遺伝子」について解説します。

この記事を読めば、エピジェネティック年齢の研究背景や求め方が分かるだけでなく、今後、エピジェネティック年齢についての情報を収集するために必要な基礎知識が身につきますので、是非最後までお読みください。

Horvath博士らの論文~研究背景・目的~

まず、2013年にHorvath博士らが発表した論文を紹介します。ここでは、論文の内容を分かりやすくまとめていますので、詳細が知りたい方は↓のリンクから本文をご覧下さい。

参照:DNA methylation age of human tissues and cell type

研究背景・目的
これまでに、老化の多くの症状が後天的なものであるということが示されてきました。症状が後天的に制御されているという事は、それはエピジェネティックな制御であるという事がいえます。

エピジェネティックな制御の1つに「DNAのメチル化」があります。
「DNAのメチル化」というのは、DNAのCpGアイランドのC(シトシン)がメチル化されることです。このCpGアイランドとは、CpGサイトが集中して存在する領域のことであり、CpGサイトとは、C(シトシン)とG(グアニン)が連続する配列のことです。

CpGサイト

これまでの研究により、DNAのメチル化レベルは、加齢によって変化する事が分かっています。
従って、Horvath博士らは、エピジェネティックな制御である「DNAのメチル化レベル」を調べれば、「老化レベルを知る(=生物学的年齢を知る)」ことの指標になるのではないかと考えました。

これまで、特定の組織についてであれば、DNAのメチル化レベルを基にした年齢予測が行われてきました。しかし、組織の種類に関係なく、DNAのメチル化レベルを基にして、対象個体の老化レベルを予測できるかどうかはまだ分かっていませんでした。

そこで今回は、DNAのメチル化レベルを調べることで、エピジェネティック年齢の指標=エピジェネティッククロックを作成することを目的としました。
具体的にいうと、エピジェネティック年齢を決めるために重要なCpGサイトを探すことを目的としました。

Horvath博士らの論文~結果~

結果
まず、様々な細胞や組織のDNAのメチル化データを集めました。そして、機械学習による解析を行い、実年齢への当てはまりが高くなるようなCpGサイトを探しました。(具体的な実験方法や手順については、論文をご覧下さい。ここでは、簡単な解説のみにとどめておきます。)

その結果、エピジェネティック年齢を決めるのに重要な353個のCpGサイトを発見しました。Horvath博士らはこれらのCpGサイトを、エピジェネティッククロックCpGと呼ぶことにしました。

現在、DNAのメチル化レベルによるエピジェネティックな年齢の算出方法は、このHorvath博士らが行った方法(=この方法は「Horvathの時計」と呼ばれています。)が有名ですが、実は他の算出方法も発表されました。↓に論文のリンクを貼っておきますので、気になる方がいましたら、是非ご覧になってみてください。

Hannumらの方法:Genome-wide methylation profiles reveal quantitative views of human aging rates

Levineらの方法:An epigenetic biomarker of aging for lifespan and healthspan

2022年に発表された論文~結果~

これまで、エピジェネティック年齢についてHorvath博士らの論文で分かっていることについて説明してきました。
では、2022年現在、新たに何が分かったのでしょうか。

なんと、Horvath博士らが発見した353個のCpGサイトのうち、老化の加速と減速の原因となるCpGサイトが見つかったのです。

老化の加速と減速の原因となるCpGサイトが見つかったという事は、私たちが老化するメカニズムを解明することに繋がります。また、エピジェネティック制御による寿命延長の研究に大きく役立つ可能性があるといえます。

さっそく、その論文を紹介します。

参照:Deconvolution of the epigenetic age discloses distinct inter-personal variability in epigenetic aging patterns

結果1
まず、老化メカニズムの個人差を評価するために、1441人の健康な人の実年齢と、エピジェネティック年齢を散布図にまとめてみました。この時、エピジェネティック年齢を求めるのに使用した方法は、「Horvathの時計」という方法です。

その結果、全体の傾向として、実年齢が高くなればなるほど、エピジェネティック年齢も高くなることがみられました。

実年齢とエピ年齢グラフ

つまり、実年齢とエピジェネティック年齢は比例している傾向がみられるということであり、エピジェネティック年齢の求め方として「Horvathの時計」は適している可能性が高いということがいえます。

また、同じ実年齢の人の中でも、エピジェネティック年齢が高い人がいたり低い人がいたりと、エピジェネティック年齢のバラつきが大きい事が分かりました。

結果2
では、なぜ同じ実年齢の人の中でも、エピジェネティック年齢に個人差があるのでしょうか。それを調べるために筆者らは、まず同じ実年齢の人の間で、最も変動しやすいCpGサイトを見つけることにしました。その結果、9つのCpGサイトが見つかり、そのうち特にエピジェネティック年齢の老化を加速させる割合が高いものは、「セクレタゴギン(SCGN)」と「マリン(NHLRC1)」に関連する遺伝子のCpGサイトでした。(「セクレタゴギン」と「マリン」とは?については、後ほど解説します。)

逆に、エピジェネティック年齢の老化を減速させるCpGサイトも見つかりました。さらに、このそれぞれのCpGサイトが加速させる年齢と減速させる年齢の差が、実年齢とエピジェネティック年齢の差になる可能性が高いということも示されました。

エピ年齢加速と減速の差

結果3
次に、9つのCpGサイトの中で、最も老化を加速させるCpGサイトと、最も老化を減速させるCpGサイトは何かを調べました。

その結果、最も老化を加速させたのは「セクレタゴギン」と「マリン」に関するCpGサイトで、最も老化を減速させたCpGサイトも、なんと「セクレタゴギン」と「マリン」に関するCpGサイトでした。

同じCpGサイトで、老化を加速させたり減速させたりするのは、誰が見ても矛盾しているように思えます。しかし、さらに調べると、老化を加速させる時と減速させる時で「セクレタゴギン」と「マリン」のメチル化状態が異なる可能性が高いことが分かりました。

つまり、エピジェネティック年齢に大きな影響を与えるCpGサイトや関連する遺伝子は、メチル化状態によって「老化を加速させる」時と、「老化を減速させる」時がある可能性が高いことが分かりました。

老化加速減速メチル化違い

結果4
ここで少し視点を変えます。
加齢に伴って起こる疾患の1つに「糖尿病」があります。(糖尿病とは?という方はこちらをご覧下さい。)これまで健康な人のエピジェネティック年齢は多く測定されてきましたが、糖尿病患者のデータはあまり多くありません。そこで今回、健康な人と同様に、糖尿病患者のエピジェネティック年齢を「Horvathの時計」で算出し、健康な人のエピジェネティック年齢と照らし合わせてみました。さらに、糖尿病患者でも、エピジェネティック年齢の老化の原因となるCpGサイトの探索を行いました。

その結果、なんと、同じ実年齢の人の中で、健康な人より糖尿病患者の方がエピジェネティック年齢が低かったのです。
先ほども述べたとおり、糖尿病は老化に伴って起こる疾患の1つでもあるので、健康な人よりエピジェネティック年齢が低い=生物学的に若いというのは驚きじゃないですか?

実年齢とエピ年齢グラフ糖尿病

さらに、糖尿病患者で最も変動しやすいCpGサイトも「セクレタゴギン」と「マリン」に関するCpGサイトでした。
このことからやはり、エピジェネティック年齢の決定に大きな影響を与えているCpGサイトは、「セクレタゴギン」と「マリン」に関するCpGサイトである可能性が高いといえます。

ただ、健康な人ではあまり変動しませんが、糖尿病患者では変動しやすいCpGサイトも発見されました。ですので、健康な人と糖尿病患者で、エピジェネティック年齢を決めているCpGサイトは、厳密には異なるのかもしれません。

では、なぜ健康な人より糖尿病患者の方が、エピジェネティック年齢が低いのでしょうか?

1つの可能性として、健康な人と糖尿病患者では、エピジェネティック年齢の算出方法が異なるのではないかという可能性があります。
今回は、糖尿病患者も「Horvathの時計」を用いてエピジェネティック年齢を算出しましたが、「Horvathの時計」は健康な人を対象にしたものであるので、糖尿病患者のDNAのメチル化レベルをうまく反映できていないのではないかと考えられています。
このあたりについては、さらなる研究が期待されます。

セクレタゴギンとは?

セクレタゴギンは、膵臓や小脳で多く発現しているタンパク質です。カルシウムを感知する役割があり、膵臓のインスリンの分泌を促進させる働きがあります。
さらに、最近の研究により、アルツハイマー病のような神経変性疾患から、神経を保護する働きもあるのではないかということも分かってきました。
しかし、セクレタゴギンと寿命・老化の関係については、まだ明らかになっていません。詳しくはこちらをご覧下さい。

マリンとは?

マリンは、NHLRC1遺伝子によってコードされるタンパク質です。
主な働きとして、脳内のニューロン(神経細胞)の正常な生存に関与しています。
さらに、細胞内の不要なタンパク質を分解する機構の一部としての働きもあります。
また、動物実験では、マリンが欠乏すると、老化が加速されてしまうという報告もあります。詳しくはこちらをご覧下さい。

まとめ

ここまで、エピジェネティック年齢についての2つの論文を簡単に解説してきました。
いかがでしたでしょうか?
少し長めになってしまったかもしれませんが、エピジェネティック年齢の2022年の最新情報について、なんとなくお分かりいただけたでしょうか?

CpGサイトとかセクレタゴギンとか、単語が多すぎて分かりにくい…
という方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、少し専門的な内容ですので、実感が沸きにくいかもしれません。
しかしご安心ください。
ここで、今回の記事のポイントをまとめておきます。
このページの上部にも記載してありますので、是非ご覧ください。

ポイント

  • DNAのCpGサイトとは、C(シトシン)とG(グアニン)が連続する配列のこと
  • DNAのメチル化とは、CpGサイトのC(シトシン)がメチル化されること
  • 「セクレタゴギン」と「マリン」の遺伝子に関するCpGサイトは、エピジェネティック年齢の決定に大きく関与している可能性が高い

エピジェネティック年齢についてさらなる研究が進んで、私たちのエピジェネティック年齢を若く保つ方法が確立されたら嬉しいですよね。

以上、「エピジェネティック年齢を決める”重要な遺伝子”とは?最新の論文を分かりやすく解説」についての記事でした!

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