老化のキーワード「NAD」について知ろう!

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NMNサプリメントが話題になっていますね。
(NMNとは?という方はこちらをご覧ください。)
NMNは、アンチエイジングや抗酸化作用があるのではないかと期待されています。
マウスにNMNを投与すると、健康寿命が延びたという報告もあります。↓

Kathryn F.Mills et al.:Age Related Changes in NAD+ Metabolism Oxidative Stress and Sirt1 Activity in Wistar Rats,Cell Metabolism,24,6,795-806,2016

現在、人間でも試験が行われているので、今後の研究結果に期待したいですね。

ところで、なぜNMNにアンチエイジングが期待されているかご存知ですか?

そのヒントは、NMNがnicotinamide adenine dinucleotide(NAD)の前駆体であるということにあります。NADは生体内で合成されており、様々な代謝に関わる重要な補酵素です。「様々な代謝に関わる重要な補酵素」と言われても、いまいちパッとこないと思います。ただ、事実としてこんな報告があります。↓

NADは、歳をとると減る。
NADが減ると、老化に繋がる。

Braidy N et al.:Age Related Changes in NAD+ Metabolism Oxidative Stress and Sirt1 Activity in Wistar Rats,PLOS ONE,0019194,2011

つまり、歳をとってNADが減ることが老化の原因の1つとなるということです。
では、なぜ歳をとるとNADが減るのでしょうか?
なぜNADが減ると老化に繋がるのでしょうか?

今回の記事ではそんな疑問に答えるべく、NADの主な機能について紹介したいと思います。

そもそもNADってどんな働きをするの?

なぜ歳をとるとNADが減るの?に答える前に、そもそもNADってどんな働きをするの?ということを簡単に説明します。
NADの役割は大きく3つに分かれます。

①ATPを作ること
②傷ついたDNAを修復すること
③サーチュインを活性化すること

1つ1つ見ていきましょう。

①ATPを作ることについて

NADの3つの役割のうち①は、ミトコンドリアで行われます。
ミトコンドリアはその機能の1つとして、ATPを産生します。ATPはエネルギーをためるので、細胞が活動するために重要です。

ミトコンドリアのイメージ図

NADはミトコンドリアに取り込まれると、最終的にATPを産生するために利用されます
詳しく触れませんが、「ミトコンドリアがNADをどう使うのか」などを自分で調べてみても面白いと思います。今回は、「NADはATPを産生するために必要」という事が重要です。

ここで私たちが注目するのは、「ミトコンドリアはNADを使い回す」、つまり「NADを消費しない」という点です。わかりやすく言うと、ミトコンドリアが1つのNADを利用した場合、1つのエネルギーと1つのNADが手に入るということです。つまり、NADがミトコンドリアに利用される前と利用された後で、生体内のNAD量は変わらないということです。

NADは消費されない
※図はあくまでもイメージです

NADはATPを産生するために利用されるので、ミトコンドリアに取り込まれるNAD量が増えると、生産されるATP量も増えます。産生されるATP量が増えると、使えるエネルギー量が増えるので、細胞の機能維持に寄与します。

【NADの役割 ①ATPを作ること】のまとめ

  • ミトコンドリアはNADを利用してATPを生産する
  • この時NADは消費されない

上記で説明したNADの役割の①は、「NADは使い回される」という特徴がありました。
その一方で、NADの残り2つの役割については、「NADを消費する」という特徴を持つ点で大きく異なることになります。

②傷ついたDNAを修復することについて

続いて【NADの役割 ②傷ついたDNAを修復すること】について解説します。

DNAは、私たちの遺伝情報、つまり私たちの体を作るための設計図です。私たちは、とても小さな細胞が約40兆個集まった集合体です。なぜこんなに細胞が増えたかというと、「細胞分裂」をしたからです。1つの細胞が2つに。2つの細胞が4つになるイメージです。細胞分裂をするときはDNAを複製する、つまり同じ設計図を増やします
分裂するたびに違う設計図ができてしまったら、細胞としてまとまらなくなってしまいます。なので、同じ設計図を増やすということが重要です。

しかしこの設計図、つまりDNAには傷が入ってしまうことがあります。紫外線や、何らかの突然変異によって、設計図が異常なものになってしまいます。もしこの異常な設計図が複製され、細胞分裂によって異常な設計図を持つ細胞が増えてしまったら、がんや老化の原因になります。

そこで立ち上がるのが、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)です。厳密に言うとPARPは、NADをニコチンアミドとADPリボースに分解することによって、DNAを修復する酵素を連れてくるという働きをします。言い換えると、DNAの傷を修復する専門家を連れてくる運び屋です。(図はイメージです。)

PARPとNADPARPはNADをニコチンアミドとADPリボースに分解する

PARPの働きPARPがDNA修復酵素を連れてくる

このPARPによって、傷ついたDNAが修復され、正常な設計図になります。正常な設計図ならば、異常な設計図に比べて、がんや老化につながる可能性は低くなります。

【NADの役割 ②傷ついたDNAを修復すること】のまとめ

  • DNAに傷が入ると、がんや老化の原因になる
  • PARPはNADを消費して、DNAの損傷を修復する

③サーチュインを活性化すること

最後に【NADの役割 ③サーチュインを活性化すること】について解説します。

サーチュインという言葉を聞いたことがあるでしょうか?サーチュインは、NADを消費してタンパク質を脱アセチル化する酵素です。アセチル化というのは、タンパク質を修飾する方法の1つで、タンパク質の機能を調節します。よってサーチュインは、NADを消費して、様々なタンパク質と相互作用することにより、多くの生理機能を制御していると考えられています。(図はイメージです。)

サーチュインとNAD

線虫やショウジョウバエ、さらにマウスを使った研究では、サーチュインを活性化させることで、寿命が延びるということが分かっています。さらに、サーチュインが活性化すると、老化やがんの原因となる活性酸素が除去され、免疫力の向上や高血糖の抑制といった様々な抗老化作用があることも報告されています。

Shin-Hae Lee et al.:Sirtuin signaling in cellular senescence and aging,BMB Reports,52,24-34,2019

他にもサーチュインは、ミトコンドリアの機能改善や、ストレス耐性の向上など様々な機能が知られています。これらのことから、サーチュインは非常に多くの役割を持っているため、「サーチュインを活性化することが老化を抑制することに繋がる」という可能性は高いといえます。

サーチュインの機能

【NADの役割 ③サーチュインを活性化すること】のまとめ

  • NADはサーチュインを活性化するために消費される
  • サーチュインは生体内の様々な機能を調節する

なぜ年をとるとNADが減るの?

これまでは「そもそもNADって何?」「NADが減るとなぜ老化に繋がるの?」をざっくりと解説してみました。歳をとってNADが減ると、老化に繋がり、様々な障害が引き起こされるということは、なんとなくご理解いただけたでしょうか?

では、なぜ歳をとるとNADが減るのでしょうか?大きな原因は2つあります。

①NADの消費量が増加してしまうから
②NADの合成量が減少してしまうから

①の理由は、歳を重ねるごとによって、細胞やDNAがダメージを受ける機会が増えるからです。DNAが多くのダメージを受けると、より早いサイクルでダメージを修復しなければなりません。そのため、使われるNAD量は次第に増加してしまうのです。

②の理由は、シンプルにNADを作る能力が加齢によって低下してしまうからです。生体内でNADを合成する経路はいくつかありますが、1番主要なのは、サルベージ経路です。
サルベージ経路とは簡単に言うと、ビタミンB3からNMN、NMNからNADを合成する反応経路です。冒頭でも述べたとおり、NMNはNADの前駆体です。NMNはビタミンB3から作られますが、この反応を触媒するのがNAMPTという酵素です。NAMPTはこの経路の律速酵素、つまりNAD合成を牛耳っている存在なのです。(図はイメージです)(ちなみにNRはNMNの前駆体です。)

サルベージ経路

実は近年、このNAMPTも加齢によって減少することが分かりました。

Y Mitsukuni et al.:Extracellular Vesicle-Contained eNAMPT Delays Aging and Extends Lifespan in Mice,Cell Metabolism,30,2,329-342,2019

NAMPTが減ってしまうとNADも減ってしまうため、どうにかしてNAMPTの減少を止めるもしくは、NAMPTを増やせないかと、研究がされています。

これらのことから、外部からNMNを摂取して仮にNAD量が増加したとしても、それは一時的なものに過ぎません。持続的なNAD量を確保していくには、外部要因に頼りきりになるのではなく、生体内でNADを合成する経路を安定化させることも大切なことだと言えます。

まとめ

いかがでしたでしょうか?今回は、NADの機能について簡単に紹介してみました。ポイントをまとめてみます。

・NADとは…様々な代謝に関わる重要な因子
・NADの役割…①ATPを作ること②傷ついたDNAを修復すること③サーチュインを活性化すること
(このうち①はNADを消費しないが、②と③はNAD+を消費する)
・歳をとるとNADが減る理由…①NADの消費量が増加してしまうから②NADの合成量が減少してしまうから

体内でNAD合成を安定化させることが重要だと言いましたが、NMNを外部から摂取することがだめだとは言っていません。NMNサプリによるNAD補給の欠点は、一時的な効果に過ぎないという点であるため、むしろ、継続的に摂取することでNAD補給を安定化できる可能性は十分にあります!なので、少しでも気になる方は、自分で調べてNMNサプリを試してみるのも価値があると思います!(どんなNMNサプリを選べばいいか悩んでいる方はこちらをご参考に)

ちなみに余談ですが、「NADがそんなに重要なら、前駆体のNMNじゃなくてNADを直接飲めばいいのでは?」と思う方もいると思います。その方は是非こちらをご参考にしてみてください。専門家のインタビューです。

近年、老化やアンチエイジングに注目が集まっています。今回の記事をきっかけに、老化に対して少しでも意識を持ってもらえたら嬉しいです。

※この記事の内容はあくまで参考であり、記事中の図は内容をわかりやすくするためのイメージ図です。

参考文献
・山口慎太郎 「超高齢社会日本における NAD+生物学 トランスレーショナル研究の意義と 可能性」 『日本老年医学会雑誌 57巻 3 号(2020:7)』
・坪田一男 『慶應ヘルスサイエンスニューズレター Vol.1 創刊号テーマ アンチエイジング』
・白澤卓二 「特別講演 いつまでも若々しく生きるために」 『理学療法学 第 41 巻第 8 号 474 ~ 477 頁(2014 年)』
・大田秀隆 「長寿遺伝子 Sirt1 について」 『日老医誌 2010;47:11―16』
・水沼正樹 「出芽酵母の寿命研究の現状と展望」 『醸協 106 12 2011』
・堀尾嘉幸 「蛋白質脱アセチル化酵素 SIRT1 の機能と病態への関与」 『札幌医学雑誌 87(1 - 6)1 ~ 8(2018)』
・札幌医科大学 医学部 薬理学講座 研究紹介

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